設計の考え方
先ずはじめに、このユニット W4-1320SIF で TLS を作ろうと思った考えを述べます。
このユニットの Qts という数値を見ると 0.36 とあります。これは相当に小さい値です。これで普通にバスレフのスピーカーを設計してもフラットに再生できるのはおよそ 60HZ 位まででそれ以下はレベルが下がります。
もっと低音域まで再生したいと思って考えついたのが TLS という形式です。この方式はこのユニットのように Qts が小さくても結構再生できる低音域が低く設定できるのが特徴です。
みなさんがよく知っているバックロードホーンも Qts がある程度小さくないと上手く動作しません。TLS は逆ホーンですから同様のことが言えるのかもしれません。
反対に Qts が 0.5 ~ 0.7 ならバスレフのほうが向いていると言えます。
設計
TLS のスピーカーと言っても上に示したように大きく2種類あります。左側は普通のタイプで高さが長くなります。右側は折り曲げてユニットを途中に付けるタイプです。今回は右側のタイプを作ることにします。
TLS の特徴はバスレフとの比較ではより低い周波数まで再生できるという点と低音域のスピーカーの振動板の振幅が小さくて歪を低くできる点にあります。バックロードホーンとの比較では同じ最低再生周波数に設定するとホーンの長さが半分以下に短くできる点が挙げられます。
設計図は以前にシミュレーションした図面を元に行います。基本はこのままですが、実際は逆ホーンの開口部の断面積を調節できるように作ります。というのは実際の逆ホーン開口部の断面積は計算より 1.2~1.5 倍広いほうが良いという経験則があるからです。つまりリアバッフルは最初には貼り付けず上下に動くようにしておいてスリット幅を調節してから木工ボンドで貼り付ける方法を取ります。
工作用紙に実物大で図面を描いてこの設計に合うようにしました。その結果が下の図面になります。
実際の奥行きは接着すると 0.5mm 程度ずつ増えるので側板の奥行きは余裕を見て 309mm にしました。
組み立て
板の材料はアカシア集成材です。板の購入と直線カットはホームセンターでしてもらいました。
穴あけやトリマー加工、地板の斜め板を取り付ける箇所の三角形に削る加工などは自分でしました。
これで1台分の材料になります。
右下のコの字型の部品はリアバッフルをスライドさせるためにその内側に取付けて使います。
組み立て途中です。
リアバッフルはここに付くというだけで貼り付けてはいません。あとはもう一方の側板を貼り付けたら組み立ては完成です。
1台組み上がったので重しをして乾燥しています。
リアバッフルの部分はコの字型の部品だけです。透けて見えますね。
もう1台も組み立てて2台重ねて同様に乾燥させます。
一晩放置します。
スリット幅の調整
リア開口部の幅をどれくらいにするか両面テープで仮止めして聴いて見ます。
色々試しましたが 14mm くらいが良いと思いました。
それに決定してリアバッフルを接着しました。
スリット幅を増やした分上にはみ出ています。
これは後でトリマーを使ってカットします。
リアバッフルの開口部はトリマーでR加工しました。こうした方が低音の量感が増大しました。
写真を取り忘れたので塗装後の写真です。
スリット幅 14mm +R加工です。
吸音材の調整
吸音材ですが、増やしたり減らしたり色々試した結果厚さ 2cm のサーモウールを 13cm x 7cm だけリアバッフルの内側上端に入れました。
これだけで充分にバランスの取れた音になりました。
未だ塗装はしていません。天気が良くないので2~3日後になりそうです。
とりあえず塗装しないままで音楽を聴いています。
予想以上にフラットな音圧特性に聴こえます。また、超低音域まで再生できています。もちろん高音域もこのユニット独自のセンターイコライザーのおかげで伸びていますし、30度での特性も結構良いと思います。
フルレンジスピーカーでの高音の再生は、 10,000Hz を超えると段々と超音波に近くなりスピーカーのセンターでしか聞こえにくくなります。角度が中心からずれる程にこの領域の音はレベルが落ちやすくなります。
これをいかに良くするかもメーカーのノウハウの一つだと思います。
このユニットはそれが良くできている方だと思います。
塗装
今日は組み立ての翌日ですが思ったほど天気が崩れずに曇りで風もないため塗装をすることにしました。
幸いに泡なども出ずに上手く塗装できました。2回塗りで1開塗る度に25分置きました。超速乾スプレーなので20分で乾燥しますが余裕を見て25分にしました。300mlのスプレー缶を2本と1/3使いました。
塗料が垂れないように塗るには水平面だけを塗ることです。立てたまま塗ると塗料が垂れます。直方体のものを塗装するには1面ずつ塗るので6回に分けて塗ります。
塗装がちょうど終わる昼頃には晴れてきましたが風も出てきました。風のないうちに塗装できて良かったです。
完成
バッフル上端もR加工を追加でしました。
Amazon Music やネットラジオをよく聴きます。 iTunes に録音した音楽も時々聴きます。
他には Youtube のBossa Nova や Jazz のチャンネルも聴きます。
スピーカーが良いと音源が同じでも良い音に聞こえます。このスピーカーはとても気に入りました。
追加です
保護グリルを作る
ここまでしたので、どうせならスピーカー保護グリルが欲しくなりました。
でも売っているもので大きさの合うものはなかなか見つかりません。
自分で作ろうとネットで見ていたら揚玉すくいの網を使うというのが出ていました。
これを試してみようとスーパーのキッチン用品売り場で見つけました。
外径が 11.5cm でした。このユニットのスピーカー止めネジの位置が直径 11.5cm です。
少し大きいですがなんとかしましょう。
考えて螺子のところを削ってユニットと共締することにしました。
揚げ玉救いの取っ手を外す
オールステンレス製だったので手こずりました。アルミかと思ったのですが………
千枚通しをカシメてある隙間にねじ込んでグリグリ広げました。
思ったとおり取っ手が外れました。
ニッパーで削る箇所を傷つける
ニッパーを使って削って広げる箇所を直角に傷を何度も付けます。これでステンレスも何とかカットできます。
カットする時揚玉すくいの取っ手がついていた部分にはカシメた跡がついているので下側に来るように気をつけます。
ラジオペンチで取り外す
ラジオペンチで何度も折り曲げるとようやく直角に切り取ることができました。
ヤスリで丸く広げる
直角のところを半丸ヤスリを使って削り螺子の入る様に丸く削ります。
一箇所出来上がり
この様に螺子の入る大きさに削ります。
カットして削る順番は1箇所ずつ対角線上に行います。その方が誤差を小さくできます。
これを2枚 x 4箇所で8箇所行います。
全箇所できたらユニットに取付けて音楽をかけてみます。ヒビリとか大振幅時にエッジが当たらないかをチェックします。
大丈夫でした。あとは塗装して取付けます。
黒く塗装する
つや消しブラックで塗装しました。
ネットの両サイドに木の余りを置いてそれをまたぐようにネットを置きます。それからスプレーをします。裏面を塗装してから表面を塗装します。
ユニットと共締めする
ワッシャーをかましてユニットと一緒にネジ止めします。
スピーカーグリルが付きました。
完成です。スピーカーグリルがつくと高級感が出ます。
この網は極細ワイヤーで出来ていて隙間のほうがずっと大きいので音への影響は無視できます。
いい感じに出来上がりました。